社会の荒波に抗うことなく流され続けた男が行き着いた人材の墓場…。就活失敗した新卒社会人の末路とは。

ブラック企業就職編

社会人の皆さま、これから社会に飛び立とうとしている皆さま、如何お過ごしでしょうか。前回までは、不肖maloneの怠惰な学生時代と就職活動の失敗を取り上げて、友達(同じ状況に置かれた仲間)と目的意識(どのような理由で目の前のことに取り組んでいるか)の重要性を説いてきました。

続いてのテーマは、大学卒業を機に行く宛がない、それでも働き口を探さなければならないといった窮状に追い込まれた僕がとった苦肉の策である、人材派遣会社への登録と前職のブラック企業に捕まってしまうまでの物語。そして適応障害と診断されるまで、およそ1年馬車馬の如く働いた僕の体験談をお話ししましょう…。

人材派遣会社の闇

2024年初頭、とうとう卒業後の進路を見失い、社会に打ち捨てられたのだと被害者意識と自己憐憫に必死だったmaloneはプライドだけ一人前に高く、それでも有名大学の卒業からニートへの急転直下という事実を受け容れられる訳もありませんでした。数多の求人情報サイトを渡り歩き、割りの良さそうな求人へ手当たり次第に応募していきました。

サークル活動やアルバイトで目立った実績を残した訳でもない、海外留学やボランティアなどへの参加経験もない、持たざる者として敗戦処理を強いられていた僕の前に現れたのは「未経験OK!」「新卒・第二新卒歓迎!」「専門知識不要!」といった甘い文言で、世間知らずの半端な人事をかき集めるための「小蝿とり」的な求人広告です。

そのような求人は得てして「PC・スマホの操作が分からない方向けのデジタル講師」「原則在宅勤務でデータ入力等の事務作業」などなど、多くの人にとって「これなら自分でもできそう!」と思わせる業務内容で高額報酬を謳っております。御多分に洩れず、僕が手当たり次第に応募したのもこのような内容の求人でした。

しかし、このような求人は多くの求職者を集めて人手を探している企業とマッチングさせ、多額のマージンをせしめようとする人材派遣会社の所謂「釣り広告」であることがほとんどです。事実、意気揚々と多数の好条件求人に応募した僕のもとに返ってきたのは「生憎、malone様にご応募いただいた求人は大変ご好評いただいておりまして、応募者多数のためご紹介することができません。他の求人でしたら可能な限り近い条件でご案内できるかもしれませんので、一度弊社の登録会にご参加いただけないでしょうか」という人材派遣営業マンの商売文句。ところが、これを突っぱねるだけの余裕や気力など、この時の僕は持ち合わせておりません。

そう、多くの人材派遣会社はこのような求職者とのパワーバランスを利用し、うまいこと条件の良さそうな求人で職にあぶれた情報弱者を誘い、利益へと還元しているのです。ここでその是非について論じるつもりはありませんが、当方のいち実体験として「そういうこともあり得るのだな」という風にお受け止めください(笑)。

ブラック企業との馴れ初め

その後暫くして、言われるがまま求職者情報を登録した人材派遣会社のうちの1社から、ある日このような連絡がありました。

時給1,800円、みなし残業なしのオフィス商材を取り扱う法人営業要員の募集枠があります。

ここで僕は考えました。時給1,800円は今までやってきたどんなアルバイトよりも割りの良い条件です。しかし、派遣社員としての性質上、賞与もなければ昇給も約束されない、法人営業なのに売り上げに応じたコミッション(成果報酬)もない。果たしてどれだけ価値のある案件なのだろうかと。

曰く、このような案件はそう多くなく、もたもたしていると他の求職者へ紹介されてしまうと。派遣会社の営業担当は僕に早期の決断を求めました。時給1,800円ならフルタイムで働けば日給14,400円、一ヶ月の実働を20日と考えれば新卒社会人としては申し分ない報酬だし、残業には割増賃金が支払われます。

「あれ、思ったより悪くないぞ」というのが、浅はかな脳みそで導き出した皮算用に基づく僕の第一印象でした。その日のうちに二つ返事で就業先担当者との面談を決めたmaloneは、この時知る由もなかったのです。この決断が、後に大きな後悔を生むことになるなど。

面接という名の自動改札

クローゼットの中から、いつ買ったものかも分からないサイズの合わない背広を引っ張り出し、大手を振るってたどり着いたのは恵比寿の一等地に佇む高層ビルでオフィスを構える、いかにも今時なIT企業の受付フロアです。派遣会社の担当者と事前に簡単な打ち合わせをして、二人三脚で、まずはこれから働くことになる企業で僕の上司となるチームリーダー含む複数名と面接をすることになりました。

「お世話になっております」

溌剌とした声が奥の会議室から響き渡り、視線を向けるとそこには気鋭のIT企業で陣頭指揮を取る人間とは思えない、冴えない4~50代の個性豊かなオジサンたちが4名ほど顔を出しました。

部屋に案内されるや、重苦しい空気を破ったのは僕と一緒に同行していた派遣会社の担当者の方でした。挨拶代わりに簡単な経歴書が差し出され、資格欄や特記事項が軒並み空欄となっている自身の見窄らしい略歴に嫌気が差しながらも、僕はそれに続くようにして努めて明るく自己紹介をしました。

「なぜ法人営業をやろうと思ったの?」「うちの会社について、何か知ってる?」「大学で学んできたこととは違うと思うけど、どうしてうちなの?」「未経験からスタートすることになるなら、正直厳しい業務内容だと思うけど、やっていけそう?」

並の就活生なら当たり前に想定し、理想の返答を用意できているはずの質問に対して、当時の僕は恥ずかしながら、一切まともに答えることができませんでした。それどころか、面接担当の方からの質問を前に僕は「確かにそうだ」と思い直し、なぜ営業職に就こうとしているのか、なぜIT業界なのか、自分は本当のところ何をしたいのか、そこで初めて自問自答してしまったのです。

答えに窮する僕の様子をみた派遣会社の営業担当は頭を抱え、場の空気は一変、凍りついてしまいました。その後、どのようなやりとりが交わされたかは黒歴史すぎて、記憶に残っておりません(笑)。完全に終わったと確信した僕と派遣担当者は肩を落とし、とぼとぼと帰路に着いたのでした。

しかし、僕の予想は程なくして、意外な形で裏切られることになりました。というのも、明朝次のような連絡が僕の携帯電話に飛び込んできたからです。

maloneさん、やりましたね! 早速来週から、出勤よろしくお願いいたします!

23歳、放置プレイ。

埃を被った野暮ったいスーツに再び袖を通すことになろうとは、まさか思いもしなかったmaloneはついにIT企業の派遣社員という形で社会人デビューを果たしました。情けないことに、これは後から知ったことですが僕が勤めていた企業は当時、東証プライム上場の大手通信販売代理店で、業界では知らぬ者はいないといった大企業でした。

故に、初出勤の日、オフィスフロアですれ違うサラリーマン・サラリーウーマンたちの姿は一層キラキラして見えましたし、これも入社後知ったことですが営業職には珍しくビジネスカジュアルが認められ、髪型や髪色といったところにも寛容な社風でした。

理想の形ではなかったけれど、今日から僕もイケてるIT企業の仲間入り。何を勘違いしたのか、そのように浮かれ切っていた僕が案内されたのは、あろうことか面接の際に顔合わせした冴えない4~50代のオジサン・オバサンが数名集まった営業の窓際部署だったのです。

曰く、僕が配属されたのはオフィス商材を専門に取り扱う総合商社から、業務委託という形で法人営業業務を依頼されているアウトソーシング受託事業部らしく、少数精鋭といえば聞こえは言いものの、売上という面では何ら期待されていないお荷物部署、人材の墓場だったのです。

当時の僕はそのような背景に気づく余地もなく、これから自分の2倍以上も生きている親世代の先輩職員に囲まれながら営業のイロハを学んでいかなければならないのかと、期待半分、不安半分といった心境でした。とはいえ、やるからには全力で取り組んで成果を上げてやると考えていた僕は、教育係としてアサインされた先輩社員に挨拶をします。

「先輩、おはようございます。本日からよろしくお願いします」

「おー、よろしくね。」

「まずは何からすればよろしいですか」

「PCとスマホが貸与されるから、セットアップしといて」

「できました」

「もう? 早いね」

「え、はい…。」

入社当日、僕の記憶に残っているやりとりは以上です(笑)。ちなみに、僕は大学の在学最終年、単位を取り切って卒業は既定路線だったため、前職は2月から入社しておりました。年度末の繁忙期だったこともあり、先輩も忙しかったのでしょうが教育係としてアサインされたにも関わらず、法人営業未経験だった僕には何の教育・研修等の場は用意されていなかったのです…。

勿論、新入社員として僕は率先して他の先輩社員にも「何かやるべきことはありますか」と適宜お伺いを立てました。しかし、指示されるのは取り止めのないことばかりで「PC上で社内向けの研修動画でも見といて」や「IT業界初めてなら、ITパスポートでも取ったら良いんじゃない。勉強得意なんでしょ(笑)」といったいい加減な内容でした。確かに社内向けに配信されている研修動画や商材紹介動画はありましたが、そのどれもが現状の仕事にマッチするものではなく、外部から営業代行という形で異なる商材を取り扱っている窓際部署のイントロダクションになるような内容など一つも含まれてはいませんでした。

とはいえ、朝9時に出勤し、フリーアドレスとなっているオフィスの中、わざわざ先輩社員の座るデスクを見つけ出して隣に腰掛け、どうせ何の指示もないまま定時の18時を迎えるという生活は退屈極まりなかったので、ITパスポートはサクッと取得しました。ですが、ITパスポートという試験はデジタル化著しい昨今において全ての業種・業界の人間に求められる、社会人としての素養が問われる試験です。その性質上、難易度もそれほど高い訳ではなく、資格を取ったからといってIT業界の潮流が理解できるものではありません。

そのような中、面接の場で一度顔を合わせたきりだった所属部署のチームリーダーからかけられた一言には、背筋を凍らされました。

来月から他の先輩社員たちと同様、売上300万/月の数値目標を追ってもらうね。

終わりに

如何でしたでしょうか。今回は、大学での交友関係作りに失敗し、就職戦争から背を向けてきた敗残兵maloneの社会人突入編ということで、後に僕が崩壊の運命を辿ることとなるブラック企業との出会いをご紹介しました。

人生、成せば成る、成さねば成らぬといいますが、なんだかんだ生きていけるものです。しかし、冒頭申し上げたように、何を目的として今何をするのか、それが明確でないと人生の質は変わりませんし、人間としての成長もありません。昭和の精神論的な響きかもしれませんが、これは歴とした事実だと思います。

かつてのmaloneのように、時代の流れに身を任せ、のらりくらりと流離うばかりでいては、僕が出会った人材派遣会社と前職の企業のように、それぞれの思惑にうまいこと乗せられて、食い潰されるだけなのです。そういう意味では、人間社会も自然界と同じ弱肉強食と言えそうです。

話が脱線しましたね(笑)。さて、次回は完全未経験から法人営業の世界へ飛び込んでいったmaloneが何の教育・研修も受けられないまま売上目標を課せられ、何をどうしたら良いか分からないと慌てふためく様を思い出しながら、面白おかしくお伝えしようかと考えております。お楽しみに…。

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